1. 「あの人、別人になっちゃいましたね」
先月、部下の若手から声をかけられました。「部長、Aさん最近ずっとスマホいじってますけど、いいんですか?」。Aさんは元課長、55歳。役職定年でプレーヤーに戻った瞬間から、目に見えて仕事をしなくなりました。会議では発言ゼロ、商談同行も断る、若手の相談にも「俺はもう関係ないから」。現役時代はバリバリのトップセールスだった人が、なぜこうも変わってしまうのか。正直、私も最初は「ふざけるな」と思いました。でも、腹を立てる前に、考えるべきことがあったんです。
2. なぜ、急に働かなくなるのか
現場で15年以上マネジメントをやってきて、役職を外れた瞬間に失速するベテランを何人も見てきました。彼らに共通するのは、サボりたいわけじゃないということ。原因はもっと深いところにあります。
① アイデンティティの喪失
「課長」「部長」という肩書は、本人が思っている以上に自己定義そのものになっています。名刺から役職が消えた瞬間、「自分は何者なんだ?」という問いに答えられなくなる。これが一番大きい。
② 給与ダウンへの静かな抗議
役職定年で年収が2〜3割落ちるのは珍しくありません。「同じ働きをするのは割に合わない」という気持ちが、無意識に手を抜かせる。本人も自覚していないケースが多いです。
③ 「使われる側」への心理的抵抗
昨日まで指示を出していた相手が、今日から上司。しかもその上司が、自分がかつて育てた後輩だったりする。このプライドの痛みは、経験した者にしかわかりません。
④ 役割の再定義がされていない
これは会社側の問題です。「はい、今日からプレーヤーね」で終わらせてしまう。何を期待されているのかが曖昧だから、動きようがない。
3. 現場で効いた、ベテラン再起動の処方箋
対処法①:まず、ちゃんと話を聞く
私がAさんに最初にやったのは、居酒屋で2時間ひたすら話を聞くことでした。説教でも説得でもなく、傾聴。「正直、今どう思ってますか」と聞くと、堰を切ったように出てきました。「悔しい」「寂しい」「どう振る舞えばいいかわからない」。本音が出ない限り、何も始まりません。
対処法②:新しい「役割名」を与える
肩書がなくなったなら、新しい看板を用意する。私は「シニアアドバイザー」という社内呼称を作って、若手育成と大口顧客のクロージング同行を正式な役割にしました。肩書きって、本当に効きます。
対処法③:若手に「教わりに行かせる」
ベテランに「若手を教えてやってくれ」と言うより、若手側から「Aさん、この案件相談させてください」と行かせる方が10倍効く。頼られると人は動きます。これ、鉄則。
対処法④:評価指標を変える
プレーヤーと同じ売上目標で評価したら、絶対に納得しません。ベテランには「若手の成約率向上への貢献」「ナレッジの文書化」など、別軸の評価を設計する。ここをサボると全部崩れます。
対処法⑤:マネージャー自身がプライドを捨てる
年上部下に指示を出すのは気を遣います。でも、遠慮して腫れ物扱いするのが一番まずい。「Aさんの力が必要なんです」と頭を下げて頼む方が、よほど動いてくれます。
ちなみに私自身、この手の「人との向き合い方」を体系的に学び直したくて、最近はKindle Unlimited(読み放題)でマネジメント本を片っ端から読み漁っています。月1,000円ちょっとで関連書籍が読み放題なので、移動中のインプットにはもってこいです。
4. この悩みに効く、おすすめ書籍
『人を動かす傾聴力』——年上部下との対話は、論破でも説得でもなく、とにかく聴くことから始まります。この本は1on1や面談で「何をどう聞けばいいか」が具体的に書かれていて、私もAさんとの対話で実践しました。ベテラン相手に何を話せばいいかわからないマネージャーに、まず読んでほしい一冊です。
『マネジャーの最も大切な仕事』——人のモチベーションは「小さな前進の実感」で動く、という研究ベースの本。役職を失ったベテランに、どう小さな成功体験を積ませて内発的な意欲を取り戻させるか。そのヒントが詰まっています。精神論ではなく仕組みで動かしたい人向け。
5. まとめ
役職定年で働かなくなるベテランは、怠けているのではなく、居場所を失って固まっているだけ。腹を立てる前に、まず一度じっくり話を聞く。そして新しい役割と看板を用意する。これだけで、半分以上の人は息を吹き返します。彼らが持っている20年30年の経験値を眠らせておくのは、組織として大きな損失です。マネージャーの腕の見せどころは、若手育成だけじゃない。ベテランの再起動こそ、本当のマネジメント力が問われる場面だと、私は思っています。


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