「彼から仕事をはがしてください」——同じチームのメンバーからそんな相談を受けたとき、正直、意味がわかりませんでした。その部下は、やる気十分、性格は穏やかで、責任感も強い。以前の部署で精神的に参ってしまい、私の部署に異動してきて半年。ようやく調子を取り戻してきたと思っていた矢先の出来事でした。
調べてわかった「闇の業務委託」の実態
詳しく話を聞いて、背筋が凍りました。
他のチームから様々な「厄介な仕事」を振られていて、本来の業務ができなくなっている。チームメンバーに迷惑をかけている状態だというのです。
本人に聞くと、「みんな大変だと言っているので……」と申し訳なさそうに答える。仕事を振った側のメンバーに確認すると、「1年前から彼に業務をお願いする話になっていました」との返答。
1年前? 彼はまだうちの部にいなかったぞ?
そう指摘すると、「以前の部署にいたときに、こっちで引き継ぐ話を決めていました」と悪びれもせず言うのです。
つまり、本人の知らないところで「あいつに押し付けよう」という話ができあがっていた。そして彼は、断れない性格を利用されて、どんどん仕事を抱え込んでいたわけです。
なぜ「なんでも引き受ける人」が生まれるのか
このタイプの部下が抱え込んでしまう原因は、いくつかのパターンがあります。
1. 「断る=悪いこと」という思い込み
責任感が強すぎるがゆえに、「頼まれたら応えなければ」と考えてしまう。断ることで相手に嫌われる、評価が下がると恐れている場合もあります。
2. 自分のキャパシティを客観視できていない
「まだやれる」「なんとかなる」と思い込んでいるうちに、気づいたときには手遅れになっている。以前精神的に参ってしまったのも、この傾向が原因だったのかもしれません。
3. 周囲が「頼みやすい人」として利用している
今回のケースがまさにこれです。断らない人には、どんどん仕事が集まる。そして、それを見て見ぬふりをする組織の空気が、状況を悪化させます。
上司として実践した3つの対処法
1. 仕事を振った側に「大説教」をする
これは絶対にやるべきです。
私は仕事を振っていた他チームのメンバーを呼び出し、はっきり伝えました。「本人の了承なく、しかも上司である私に断りなく業務を押し付けるのは、組織として絶対に許されない」と。
今後、彼に仕事を依頼する場合は必ず私を通すこと。勝手に渡した仕事は即座に引き上げること。これを明確にルール化しました。
「断れない人を守る」のは、上司の仕事です。本人に「断れ」と言うだけでは解決しません。
2. 本人に「相談するルール」を設ける
彼本人には、こう伝えました。
「今後、誰かから仕事を頼まれたら、引き受ける前に必ず私に相談してくれ。断るかどうかは一緒に考えよう」
ポイントは「断れ」と言わないことです。断れないから困っているのに、「断れ」と言っても無理な話。だから「相談する」というワンクッションを入れる。これなら彼も実行しやすいし、私も状況を把握できます。
実際、この仕組みを入れてから、彼は「こういう依頼が来たんですが……」と報告してくれるようになりました。私が「それは断っていい」「それは受けてOK」と判断することで、彼の負担は明らかに減りました。
3. チームメンバーにも「異変を報告する文化」を作る
今回、同僚が「彼から仕事をはがしてください」と相談してくれたから、問題が発覚しました。これは本当にありがたかった。
だからチームには、「誰かが明らかにおかしい状況になっていたら、遠慮なく教えてほしい」と伝えました。本人が言い出せないことを、周囲が気づいて声を上げる。これがチームとして機能している証拠です。
「チクリ」ではなく「助け合い」。そういう空気を作っておくことが、同じ問題の再発防止につながります。
おすすめの書籍
「断れない部下」をどう守り、どう育てるか。この問題に向き合うなら、『マネジャーの最も大切な仕事』が参考になります。部下の日々の進捗を把握し、小さな変化に気づくことの重要性が書かれています。今回のように「気づいたときには手遅れ」を防ぐためのヒントが詰まった一冊です。
また、本人の「断れない」という思考パターンを理解するには、『嫌われる勇気』もおすすめです。「他者の期待に応えなくていい」という考え方は、責任感が強すぎる人にこそ届けたいメッセージです。
まとめ
なんでも引き受けてしまう部下は、責任感が強く、優しい人が多い。だからこそ、周囲に利用されやすく、自分から「助けて」と言えない。
上司にできることは、本人に「断れ」と言うことではありません。
- 仕事を押し付ける側を牽制する
- 引き受ける前に相談するルールを作る
- チームで異変を共有する文化を育てる
この3つで、「抱え込み体質」の部下を守ることができます。
以前の部署で精神的に参ってしまった彼を、同じ目に遭わせるわけにはいかない。そう思って動いた結果、今は本来の業務に集中できるようになり、表情も明るくなりました。
「守る」というのは、甘やかすことではありません。その人が潰れないよう、仕組みで支えること。それが上司の役目だと、改めて感じた出来事でした。

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