新しい部署の部長に着任して2週間。引き継ぎ資料を片手に業務の全体像を把握しようとしていたとき、ある業務の詳細を誰も知らないことに気づきました。「これ、誰が責任者なの?」と聞くと、「この部分はA部署、ここはB部署に聞いてください。詳細は誰も把握していません」と堂々と返される。「じゃあ責任者を決めよう」と提案すると、「みんなでやればいいじゃないですか。振り回さないでください」と。挙句、「前の部長が中途半端に辞めたからでしょう」と言われる始末。正直、頭を抱えました。
なぜ「誰も責任を取らない状態」が生まれるのか
この状況、実は珍しくありません。私自身、複数の部署を経験してきましたが、似たような光景を何度も見てきました。なぜこうなるのか、原因を整理してみます。
1. 「責任を持つ=損をする」という認識
責任者になると仕事が増える、何かあったときに詰められる──そんな経験が組織に蓄積されていると、誰も手を挙げなくなります。過去に責任者が割を食った事例があるのかもしれません。
2. 前任者が曖昧なまま去った
部下の言葉にもあったように、前の部長が責任の所在を明確にしないまま異動や退職をしたケースです。「誰かがやるだろう」の連鎖が続き、気づけば誰も全体像を知らない状態になっています。
3. 「みんなでやる」という名の責任回避
「チームでやりましょう」は聞こえがいいですが、実態は「誰も責任を取らなくていい」という意味になっていることがあります。問題が起きたとき、「私だけの責任じゃない」と言える保険のようなものです。
4. 新任上司への牽制
新しい部長が来て、今までのやり方を変えられるのが嫌。だから「振り回さないで」と先制攻撃をしてくる。これは変化への抵抗であり、自分たちのペースを守りたいという心理の表れです。
この状況を放置するとどうなるか
「まあ、今まで回ってきたんだから」と思うかもしれません。でも、責任の所在が曖昧な業務は、いつか必ず大きな問題を引き起こします。
- トラブル発生時に対応が遅れる(誰が動くか決まっていない)
- ミスの原因究明ができない(誰も全体を把握していない)
- 改善が進まない(責任者がいないので誰も着手しない)
- 新人が育たない(教える人がいない)
これは時限爆弾です。爆発するまで気づかないだけで、リスクは確実に積み上がっています。
新任部長としての具体的な対処法
1. まず「事実」を可視化する
感情的に「これはまずい」と訴えても響きません。まずは業務フローを図にして、「ここの責任者が不在」「ここの手順が文書化されていない」という事実を可視化しましょう。
ホワイトボードやスプレッドシートで業務の流れを書き出し、「誰が」「何を」「いつまでに」を埋めていく。空欄が残る部分が、リスクの塊です。この作業自体に部下を巻き込むことで、当事者意識を少しずつ持たせることができます。
2. 過去の「痛い目」を共有する
責任者不在で起きた他社の事故や、自分が過去に経験したトラブルを具体的に話します。「こういうことが起きるんだよ」という抽象論ではなく、「A社で似たような状況があって、結局〇〇万円の損害が出た」といったリアルな話が効きます。
人は「自分ごと」にならないと動きません。でも、具体的な事例を聞くと「うちも同じかも」と想像力が働き始めます。
3. 小さな責任から任せる
いきなり「この業務全体の責任者になれ」と言っても反発されるだけです。まずは「この部分だけ、詳しくなってもらえないか」とお願いする形で始めましょう。
例えば「この申請書の書き方について、質問が来たら答えられるようになってほしい」といった具体的で小さな範囲から。それができたら範囲を広げていく。いきなり大きな責任を押し付けない配慮が、信頼関係を築く第一歩です。
4. 「責任を持つメリット」を設計する
責任者になることが「損」だと思われている状態を変える必要があります。評価面談での加点材料にする、成果を経営層に報告する機会を作る、といった形で「責任を持つことが報われる仕組み」を見せましょう。
「やってもやらなくても同じ」という空気がある職場では、誰も手を挙げません。頑張った人が報われる設計を、部長として意識的に作ることが大切です。
5. 自分が率先して責任を取る姿を見せる
部下に「責任を持て」と言う前に、自分自身が責任を取る姿勢を見せることが最も効果的です。問題が起きたときに「これは私が判断したことだから、私が対応する」と言えるかどうか。
前任者が「中途半端に辞めた」と言われているなら、なおさらです。「この人は逃げない」と思ってもらえるまで、自分が前に出続ける覚悟が必要です。時間はかかりますが、これが最も確実な方法です。
おすすめの書籍
こうした「責任の所在が曖昧な組織」を立て直すには、問題の構造を整理する力が必要です。『問題解決』は、複雑に絡み合った課題を分解し、本当の原因を特定するための思考法が学べます。「なぜ誰も責任を取らないのか」の根本に迫るために、手元に置いておきたい一冊です。
また、部下が動かない、反発されるという状況を打開するためのヒントとして、『人を動かす』もおすすめです。80年以上読み継がれている古典ですが、「人はなぜ動かないのか」「どうすれば協力を得られるのか」という本質が書かれています。新任マネージャーが最初に読むべき一冊と言っても過言ではありません。
まとめ
「誰も責任を取らない」という状態は、一朝一夕には変わりません。でも、放置すれば必ずどこかで破綻します。
新任部長として最初にやるべきは、感情的にならず、事実を可視化すること。そして、責任を持つことが「損」ではなく「得」になる設計をすること。何より、自分自身が責任を取る姿を見せ続けること。
「振り回さないでください」と言われたとき、私はこう返しました。「振り回すつもりはない。でも、このままでいいとも思っていない。一緒に考えてほしい」と。
時間はかかります。でも、逃げなければ、必ず変わります。あなたの部署も、きっと。

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